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高松高等裁判所 昭和36年(ラ)37号 決定

抗告人 原[貝生]信 外四名

相手方 原今太郎 外二名

主文

原審判を取消す。

本件を高松家庭裁判所に差し戻す。

理由

抗告代理人の抗告の趣旨および理由は末尾添付の別紙記載のとおりである。

職権をもつて案ずるに原審判には左記の違法がある。

一、原審は審判書末尾添付の(以下同じ)第二目録記載の物件は抗告人ら先代原小三郎が被相続人原キクより生前贈与を受けたものであると認定した。もしそうならこれら物件は、その価額が民法第九〇三条により相続分算定に当つて考慮されることがあつても、キクの遺産ということはできず、従つて分割の対象となるものではないわけである。しかるに原審判は右物件をも併せて分割の審判をしている。

二、原審判は相続財産の総額(第二目録記載物件の価額も民法第九〇三条により算入して、)を、金六〇三三、四三〇円と算定したがその根拠が不明である。鑑定人深谷義信の鑑定の結果を証拠として掲げているところを見るとこれによつたとも考えられるが、右鑑定の結果(記録八二丁評価書)ではそのような数額が算出されないことは計算上明らかである。いわんや右鑑定結果中には第一目録記載物件中の善通寺市善通寺町字本村道下、一、田九畝一七歩、および第二目録記載物件中の同町同字道上三九一番地、家屋番号同町第二七八番、一、木造瓦葺平家建釜屋、建坪二坪二合の評価がなされておらないし、又第一目録記載物件中の同町同字道上三九二番地、一、宅地一一七坪が一三五坪として計算されている誤もあるから、これだけで相続財産の総額を認定したとは考えられない。しかるに他にいかなる資料によつたか不明である。

三、原審判はその理由において第一目録記載物件は原今太郎の単独所有とするのが相当である旨判示しながら、主文において右物件中の善通寺市善通寺町字本村道上四三七番地の一、四四〇番地の一、一、宅地二四坪外五歩畦畔は右今太郎の所有に帰属させておらず、その理由を付しておらない。

四、調査官の調査報告書によると抗告人らは、相手方原今太郎が善通寺市善通寺町字本村道上四三八番地の三、一、宅地七八坪五合二勺外四筆の土地を、被相続人原キクより生前贈与を受けたと主張していることは明らかである。生前贈与の有無は相続分の算定に重大な関係を有するのに、原審判はこれに対して何らの判断も示していない。

原審判は第二目録記載の物件は被相続人原キクよりその二男である抗告人ら先代原小太郎が生前贈与を受けたと認定しているのであるから、長男である相手方原今太郎も何らかの不動産の生前贈与を受けたことも考えられるところである。原審は抗告人らの右主張につき審理を尽し、判断を示すべきである。

五、抗告人原信夫作成の原キク遺産不動産並びに参考関係調べ一覧表(記録六〇丁)によると、同抗告人は第一、第二目録記載物件および四で記載した物件以外にも原キクの遺産が存することを主張し、その地目を示している。しかるに原審が右主張につき審理をなした形跡は全然ない。これら物件中にはあるいは遺産として現存するものがあるかも知れないし、相手方原今太郎、抗告人ら先代原小太郎が生前贈与を受けたものがあるかも知れない。いずれにしてもこれらの事実は本件審判に重大な関係を有することはいうまでもない。原審判には審理不尽の違法があるといわねばならない。

よつて原審判は取消すべきであるから、抗告理由についての判断を省略し、家事審判規則第一九条第一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 横江文幹 裁判官 安芸修 裁判官 野田栄一)

抗告理由〈省略〉

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